ある日砂漠の真ん中で一緒に旅をしていた老爺が言った
少年よ あの星が見えるかい
あれは悲しみに溺れた人がたった一粒残した涙なのだと
それが天に上り星になったのだと
いつかあの星が落ちるとき
この世界に悲しみは飛び散るのだろうか
そう聞いても返事はなかった
どんなに涙を流しても 救われることがあったのか
誰も知らない
ある日深い森の中で一緒に旅をしていた老爺が言った
少年よ あの月が見えるかい
どんなに暗い夜でも月があれば
我々はそれを頼りにどこまでも進めるのだと
もしも雲があの月を隠してしまったら
何を頼りに進めばいいのだろうか
そう聞いても返事はなかった
拠り所を知っているのは 知らないより幸せなのか
誰も知らない
ある日緩やかな浜辺で一緒に旅をしていた老爺が言った
少年よ 水平線へ向かう船が見えるかい
かつて人々はあの向こうに楽園を夢見た
しかし今はただの大きな水たまりでしかないのだと
その楽園は今 どこへ行ったのか
そこはどれくらい遠くで どれほど素晴らしいのか
そう聞いても返事はなかった
楽園にどんなに夢を見ても その本当の行きかたも有様も
誰も知らない
ある日荒れ果てた廃墟で一緒に旅をしていた老爺が言った
少年よ ここに都があった
人が溢れ 静寂なんかなかった
今の風景から想像できるかい
どうして人は街を捨てたの
こんなに寂しい景色をつくるのは怖くなかったの
そう聞いても返事はなかった
時は何もかもを流れ消す その行き着く先なんてきっと
誰も知らない
ある日夕焼けを背にして一緒に旅をしていた老爺が言った
少年よ 空を眺めてごらん
空はその日その日で違うのだと
それは毎日毎日違う世界へ繋がっているからなのだと
どうやったら空に飛び込めるの
もし別の世界に行ったら帰って来れないの
そう聞いても返事はなかった
そこに飛び込んで振り向いたら この世界はどんな風に見えるのか
誰も知らない
ある日世界の片隅で一緒に旅をしていた老爺が言った
少年よ 別れは悲しいかい
だが無理に引きとめることはない
永遠に留まることなど出来ないのだと
ならみんな一緒に進めばいいのに
どうしてそんな簡単なことができないのか
そう聞いても返事はなかった
歩みのずれを直す術 遠くの人に追いつく術さえ
誰も知らない
今までの二人のことも これからの一人のことも
誰も知らない
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